大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所米子支部 平成5年(ワ)173号 判決 1999年11月29日

米子市農業協同組合承継人

甲事件原告

鳥取西部農業協同組合

右代表者代表理事

水野浩

甲事件原告補助参加人

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

平野浩志

右両名訴訟代理人弁護士

勝部可盛

太田正志

乙事件原告

富士火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

白井淳二

右訴訟代理人弁護士

鳴戸大二

小田誠裕

甲・乙事件被告

甲野太郎

(以下「被告」という。)

主文

一  甲事件原告と被告との間の平成四年一月八日の別紙契約目録記載四の火災共済契約に基づく被告に対する共済金支払債務の存在しないことを確認する。

二  乙事件原告と被告との間の平成四年一月五日の別紙契約目録記載一及び二の火災保険契約(住宅総合保険契約)に基づく保険金支払債務の存在しないことを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件

主文一項と同旨

二  乙事件

主文二項と同旨

第二  事案の概要

本件は、原告らが、火災共済契約ないし火災保険契約に基づいて共済金ないし保険金の支払を求める被告に対し、火災は被告の故意又は重過失によって生じたものであるとして、共済金ないし保険金の支払債務の不存在確認を求める事案である。

一  前提となる事実(証拠が記載されていない事実は当事者間に争いがない。)

1  被告は、平成四年一月五日、乙事件原告との間で、別紙契約目録記載一及び二の各火災保険契約を締結した。

2  被告は、平成四年一月六日、甲事件補助参加人との間で、別紙契約目録記載三の火災保険契約を締結した(甲A五、甲B四、九、証人池本悦朗、被告)。

3  被告は、平成四年一月八日、米子市農業協同組合との間で、別紙契約目録記載四の火災共済契約を締結した。米子市農業協同組合は、合併により甲事件原告となった。

4  平成四年一月一八日午前一一時一二分ころ、別紙契約目録記載の各契約の目的たる家財道具及び美術品の所在場所とされていた米子市車尾字倉敷<番地略>所在の被告の住居(以下「本件建物」という。)で火災が発生し、本件建物は消失した(以下「本件火災」という。)。

5  被告は、原告らに対し、本件火災により家財道具及び美術品が焼失したとして、これらの損害につき共済金ないし保険金の支払を求めている。

6  甲事件原告と被告との間の火災共済約款一〇条は、共済契約者又は被共済者の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては共済金を支払わない旨定めている(甲A一)。

7  乙事件原告と被告との間の火災保険約款二条は、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨定めている(甲B三)。

二  争点

本件火災は、被告の故意又は重過失によって生じたものか。

第三  争点に対する判断

一  (被告の火災の前歴)

証拠(甲A三、六の二、甲B八、一七、一八、一九、二五ないし二七、二九、三一ないし三三、三九ないし四二、七四、証人門脇美道、同山田泰範、被告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告は、昭和五三年二月二一日、乙事件原告との間で、米子市皆生の自宅建物及び家財について、建物三〇〇〇万円、家財五〇〇万円、保険期間一〇年の積立型長期総合保険契約を締結したが、昭和六一年四月一日、事業の経営が思わしくないとして、右契約を解約し、約二五〇万円の積立金の払戻しを受けた。被告は、同日、乙事件原告との間で、建物二〇〇〇万円、保険期間一年の掛捨型普通火災保険契約を締結し、昭和六二年四月一日、建物二〇〇〇万円、保険期間一年の店舗総合保険契約に切り替えた。右各契約は、乙事件原告の営業担当者である門脇美道(以下「門脇」という。)を通じて締結された。

2  被告は、自宅建物で五天場工務店を経営し、最盛期には従業員八名を雇用して住宅の増改築や新築などを請け負っていたが、昭和五六年ころには経営が悪化し、従業員を解雇した。被告は、扶桑相互銀行、国民金融公庫などから多額の融資を受け、その返済に窮したため、扶桑相互銀行の紹介により、昭和六〇年七月三一日、中国総合信用株式会社(以下「中総信」という。)から自宅の土地建物を担保に一八〇〇万円を借り入れ、国民金融公庫の債務を返済するなどした。しかしながら、被告は、昭和六二年四月以降、中総信に対する分割返済を怠ったため、中総信は、昭和六二年一〇月五日、鳥取地方裁判所米子支部に対し、被告の自宅土地建物について競売の申立てをし、同裁判所は、同月六日、不動産競売開始決定をした。その後、右競売手続は進行し、同年一二月二二日には、最低売却価額が一二二六万円と定められ、入札期間昭和六三年一月二五日から同年二月一日まで、開札期日同年二月八日、売却決定期日同年二月一五日とする売却実施命令がされた。申立人たる中総信の残元金は一七五七万三二九〇円であり、扶桑相互銀行が貸金七一六万五〇〇〇円、大野富弘が貸金七〇〇万円につきそれぞれ債権届出をした。

3  右競売の目的物件となっていた被告の自宅建物において、入札期間の初日である昭和六三年一月二五日午前一時三〇分ころ、火災が発生し、二階のうち44.3平方メートルを焼毀した。出火原因は、被告の供述と現場の状況から、「被告がタバコを吸いながら骨董品の整理作業をしていたところ、火のついたタバコを灰皿の縁に置いたままその場を離れたため、タバコが灰皿から落下し、その下に敷いていた新聞紙に着火し、その周囲の新聞紙や段ボール箱に燃え移り、押入れの襖、天井へ延焼した。」ものと推定された。

4  被告は、右火災により、乙事件原告から火災保険金二〇九四万二三五五円を受領したが、うち一七七五万二三五五円は右保険金請求権に質権を設定していた中総信に支払われ、中総信は、貸付金を回収したため、昭和六三年三月一七日、競売の申立てを取り下げた。被告は、昭和六三年三月、山岡伸に対し、代金一二〇〇万円で罹災した土地建物を売却し、合わせて同人から三五〇万円で罹災部分の修復工事を請け負った。右売買に係る所有権移転登記は、昭和六三年五月一三日付けでされたが、同日付けで中総信、扶桑相互銀行、大野富弘の抵当権設定登記も抹消された。

二  (本件各契約締結の経緯)

争いのない事実と証拠(甲A二、五、甲B一、二、四、五、七ないし九、証人長尾和夫、同池本悦朗、同門脇美道、被告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  乙事件原告の営業担当者である門脇は、平成三年一二月二九日、被告から急に電話で呼び出されて被告宅を訪問した。被告は、「美術品を沢山持っているので保険に入りたい。」と言って、すぐにでも保険に加入したい旨申し入れたが、門脇は、当日が御用納めの日であったことなどから、高額の保険契約締結のためには会社の承認が必要であること、保険をかける物品の明細書や鑑定書が必要であることなどを告げて、その日は契約を締結しなかった。被告は平成四年一月五日、再び門脇を電話で呼び出し、「1仏画一五〇〇万円、2水墨画(だるま)八〇〇万円、3水墨画(富士山)、二五〇万円、4屏風(書)二〇〇万円、5油絵(風景)二五〇万円、6油絵(風景)一七〇万円、7衝立一五〇万円、8欅欄間一二〇〇万円、9桑(水屋)一〇〇〇万円、10黒柿(水屋)七〇〇万円」と記載したメモを示してこれらの美術品、骨董品に保険をかけるとともにその他の家財にも保険をかけることを希望した。門脇は、被告に鑑定書の提示を求めたが、「そのようなものはない。」という返答であったため、年初の休み中で会社の承認が取れないとして契約の締結を拒否した。門脇は、被告の目つきが変わり、その場が険悪な雰囲気になったことから不安を感じていたところ、被告から「もし契約をせず何かあったら、お前が弁償してくれるのか。」と言われ、脅威を感じてやむなく契約の締結を承認し、被告との間で、保険金を美術品等につき六四〇〇万円、家財につき六〇〇万円、期間をいずれも一年とする別紙契約目録記載一、二の住宅総合保険契約を締結した。なお、被告が提示した美術品等の合計額は六二二〇万円となるが、門脇の計算間違いで六四〇〇万円の保険契約が締結された。門脇は、右契約締結に際し、仏画、水墨画(だるま)、油絵、衝立、欄間、水屋は一応現認したが、屏風、水墨画(富士山)については確認していない。被告は、その場で右各契約の保険料合計一七万八五〇〇円を一括して支払った。なお、従前保険契約締結の際には、被告の妻が同席していたが、平成三年一二月二九日及び平成四年一月五日に被告に呼び出された際は、いずれも被告の妻は不在であった。

2  甲事件補助参加人の営業担当者である池本悦朗(以下「池本」という。)は、平成四年一月六日、面識のない被告から「火災保険の契約がしたいので、すぐ来てほしい。」と電話で呼び出された。池本が指定された喫茶店で被告と会ったところ、被告は、「仏画一五〇〇万円、欅欄間一二〇〇万円、桑水屋一〇〇〇万円、黒柿水屋七〇〇万円、水墨画八〇〇万円」と記載したメモを示し、これら美術品とその他家財に保険をかけたい旨申し入れた。池本は、美術品が高額であったため、会社に連絡を取ったが、上司が不在であったため、被告に対し、「今、上司がいないので、私の一存では決められない。一旦会社に帰って相談してみます。」と伝えると、被告は、急に態度を変えて「お前じゃあ、らちがあかん。責任者を連れてこい。」と大声を上げた。池本は、後日自宅の方で説明したい旨話したが、被告は、「俺は仕事が大工で、今日は雨が降って休みが取れた。平素は時間が取れない。」などと言って即座に契約を締結することを要求したため、池本は、成績を上げる必要もあったことから、家財だけならすぐに契約できる旨伝え、それを了解した被告との間で、家財につき保険金二〇〇〇万円、期間については被告が短期で掛捨ての保険を希望したため、期間一年の別紙契約目録記載三の住宅総合保険契約を締結し、保険料五万五〇〇〇円を受領した。契約締結後、被告は、喫茶店をたまたま訪れた知人と別席で話し始めたが、池本は、被告に持ち家か借家か訪ねることを失念していたことに気づき、被告にその旨確認したところ、借家であることを知った。池本は、不安になってその足で被告の自宅を訪れたが、小さな平屋建ての住居であり、高額な美術品等を所有しているようには見えなかったため、喫茶店に引き返し、被告に対し、「商売上預かっているようなものは契約できない。」旨伝えたが、被告は、すべて自己の物である旨断言した。なお、被告は、右契約締結に際し、池本に対し、前日締結した甲事件原告との保険契約の存在について告知しなかった。

3  甲事件原告の共済の担当者である長尾和夫(以下「長尾」という。)は、平成四年一月八日、面識のない被告から「建物の保険契約をしたいので、すぐ来てほしい。」と電話で急に呼び出された。長尾は、出先の本所にいたため、「また、お伺いします。」と言ったが、被告は、「午前一一時ころから仕事に行くので、今がいいので来てくれ。」と強引に言うため、長尾は、本所で長期共済のパンフレットを貰って被告宅を訪問した。ところが、被告が短期の掛捨ての保険を希望したため、長尾は、後日短期のパンフレットを持参する旨言ったところ、被告から「今すぐ取りに行ってくれ。」と急がされたたため、支所に短期のパンフレットや契約書を取りに帰り、同日、被告との間で、家財一式につき保険金一〇〇〇万円、期間一年とする別紙契約目録記載四の火災共済契約を締結した。なお、被告は、右契約締結に際し、長尾に対し、乙事件原告や甲事件補助参考人との間の保険契約の存在について告知しなかった。

三  (本件火災の原因)

1  証拠(甲A六の三の四、五)によれば、被告宅四畳半の和室が最も焼毀していたこと、右和室内にあった座卓の下から灰皿に使用していたと見られるガラス片が発見されたこと、座卓の裏側の焼毀が強く、灰皿側の部分が特に強く焼毀していたこと、灰皿付近の畳の隙間に焼け込みがあり、その線上に新聞紙の残焼物があったこと、同室には被告が吸っていたというタバコ以外に火源となるような物はなく、放火をうかがわせる残存物もなかったことが認められる。

そして、証拠(甲A六の三の一、四、九、被告)によれば、被告は、消防関係者の質問に対し、「一日にタバコ三、四箱を吸い、直径約一五センチメートル、深さ約三センチメートル、厚さ約四ミリメートルの耐熱処理の施されていないガラス製の食器を灰皿に使用していた。本件火災当日午前九時三〇分ころから四畳半の和室で趣味である骨董品の整理を始めたところ、友人の松谷竹夫(以下「松谷」という。)からお茶に誘う電話がかかってきたため、午前一一時前に松谷に会うため喫茶店に出かけたが、家を出る直前にもタバコを吸っており、灰皿は前日の分と会わせて吸い殻で一杯であった。」と述べたこと、消防関係者は、右被告の説明と前記のような現場の状況から、「本件火災は、被告が灰皿として耐熱処理を施した物を使用せず、他のガラス製の容器を灰皿として使用し、前日からの吸い殻で一杯になっていた所に、消したつもりのタバコの吸い殻を入れたため、残り火が他の吸い殻に着火し、灰皿の中で高温となり、灰皿が破裂して、周囲の畳、新聞紙等に着火延焼した。」ものと推定したことが認められる。

2  右の事実によれば、本件火災は、被告のタバコの火が原因であると認められる。

なお、証拠(甲B七六)によれば、畳の上に新聞紙四、五枚を重ねて置き、その上に吸い殻で一杯になった直径一二ないし一五センチメートル、深さ2.5ないし四センチメートル、厚さ三ないし一五ミリメートルの非耐熱型の灰皿ないし食器を置き、その周囲に椿油をしみ込ませた油紙を配置したうえ、火のついたタバコを容器の中に差し込んだ場合、厚さ一五ミリメートルの物を除いては二四分ないし五四分で容器が破損したが、新聞紙や畳は焦げるものの燃焼せず、油紙への着火も困難であることが認められる。

右事実によれば、タバコの吸い殻で一杯になっていた灰皿に火のついたタバコを放置した場合、灰皿は破損するものの、必ずしも周囲の物に着火延焼するものでないことが認められ、本件火災の場合も確実に火災を発生させるために、何らかの作為が加えられた可能性を否定できない。

四  (美術品等の存否)

被告は、平成四年三月一七日付け損害明細書(甲B六)及び同年一一月九日付け損害品確認書(甲B五五)において、本件火災により仏画、赤欅欄間など一〇点総購入価額六四〇〇万円の美術品、総購入価額一四七一万円の家財を焼失した旨記載し、鳥取県西部広域行政管理組合消防署長に提出した動産り災申告書(甲A六の三の七)では罹災した家財の総購入価額を二四五九万九〇〇〇円と記載している。そして、被告は、右損害明細書等や被告本人尋問において、美術品は昭和四七年から昭和五一年にかけて故市川武男(以下「市川」という。)から自宅に保管していた現金で代金を一括して支払って購入したが、その際、鑑定書や由来を示す文書等を確認していないし、代金の領収書も受領していない旨記載又は供述している。

しかしながら、市川の妻である市川芳子は、仏画、欄間、黒柿・黒桑の水屋、油絵などは見たことがなく、価額も最高で一品一〇〇万円程度にすぎず、昭和五七年ころすべての美術品を売却した際も一〇〇八万円にしかならなかった旨供述し(甲B一三、証人市川芳子)、市川の長男明澄、市川の美術品の処分を請け負った米子堂の新宅靖忠、市川が美術品を購入していた大森商会の大森幸信もそれに沿う供述をしている(甲B七四)のであって、市川から購入したとする被告の供述はにわかに信用できないし、しかも一〇〇〇万円以上の美術品について鑑定書等も確認しないまま自宅に保管していた現金で一括して代金を支払い、領収書も受領しないのは明らかに不合理であって、被告の供述は到底信用することができないといわなければならない。さらに、被告の右供述を前提にすると、被告は、昭和六三年に自宅が競売されそうになった際も高額な美術品を処分しなかったことになり、この点も不自然であるといわなければならず、結局、被告は、六四〇〇万円相当もの美術品等は所有していなかったと認めざるを得ない。

また、被告は、昭和六二年一月二〇日、山陰労災病院において腹部大動脈閉塞性硬化症と診断され、同年四月一日、大動脈・両総腸骨動脈置換術が行われ、その後も高血圧、高脂血症、肺嚢腫に罹患し、重労働はできない状態であったこと(甲B四九、五六、被告)、被告は、昭和六三年の火災の後、月額三万円の家賃で本件火災のあった借家に妻と共に居住し、妻は家政婦として働きに出ていたこと(甲B五二、被告)、平成元年から平成三年まで米子市に対し所得の申告をしていないこと(調査嘱託の結果、甲A七、甲B二〇)、被告が取引銀行と主張する山陰合同銀行、米子信用金庫、島根銀行についても取引の事実がないか、入出金は家計費を中心とした小額なものにとどまること(甲B二一ないし二四、七四、調査嘱託の結果)、被告の幼なじみである松谷は、平成元年一二月、被告と再会し、時折会って一緒にお茶を飲むようになったが、そのころから被告は、手間大工として時々仕事をするほかは、ほとんど仕事をしておらず、松谷に仕事を紹介するよう求め、平成三年一二月には松谷の紹介で境港市の魚市場で松谷と共に働いたが、きつい仕事であったため、一日で止めてしまったこと(甲B一五、被告)、乙事件原告が依頼した鑑定事務所の鑑定では、家財についての時価損害額は三九六万七〇〇〇円に止まること(甲B六六)に照らすと、昭和六三年の火災以降、被告が総額一四七一万円ないしそれ以上の家財を現実に購入し、所有していたとする点にも多大の疑問があるといわなければならない。

五  (被告の言動)

被告の言動には、次のとおり不自然な点がある。

まず、被告は、本件火災に際し、鳥取県西部広域行政管理組合消防署長に提出した動産り災申告書において、美術品につき六四〇〇万円の火災保険契約を締結している事実を記載せず、損害品の一覧表の中にも本件美術品等は掲げていない。また、右一覧表には、一五〇万円、一二〇万円の油絵や、一四〇万円の衝立が掲げられているが、これらについては美術品等についての火災保険契約の目的にはしていない(甲A六の三の七、被告)。

また、証拠(甲B一五、証人松谷)によれば、松谷は、本件火災の前日である平成四年一月一七日の夕方、被告に電話をし、翌日の午前一〇時に喫茶店で待ち合わせる約束をしたこと、被告は、翌一八日午前一〇時五分ころ、喫茶店を訪れ、両名はモーニングサービスを食べながら雑談した後、皆生温泉浴場に行き、午後零時四〇分ころ、喫茶店の前で別れたことが認められるが、被告は、本件火災の当日、松谷から電話を受けて、午後一一時ころ自宅を出て喫茶店に赴き、雑談した後、午後零時四〇分ころ、喫茶店の前で別れた旨右事実と異なる供述をし(甲A六の三の九、甲B五二、五四)、被告本人尋問においては、松谷と皆生温泉浴場に行ったことは間違いない旨供述している。

証拠(甲B四三ないし四六)によれば、被告は、昭和六三年一〇月二〇日、交通事故により負傷し、乙事件原告から一〇〇万円の保険金を受領したことが認められるが、被告は、調査会社に提出した平成四年三月一七日付け保険契約経緯確認書(甲B五三)において、昭和六三年の火災の保険金以外、交通事故等でも保険金を受領したことがない旨事実と異なる供述をしている。

六 以上によれば、被告は、火災保険金を受領し、その後、罹災物件を売却したことにより多額の負債を整理した前歴を有するところ、本件火災は、前の火災とほぼ同じ様な状況下で発生していること、被告の供述によれば、昭和四七年ないし五一年ころ既に取得していた美術品等について、被告は、平成三年暮れになって急に火災保険に加入しようとし、平成四年一月五日から同月八日までのきわめて短期間に、三社との間で半ば強引に美術品等につき六四〇〇万円、家財につき総額三六〇〇万円にも及ぶ保険契約を締結したこと、しかしながら、被告が右保険金額に見合う美術品等や家財を現実に所有していたとは認め難いこと、本件火災は、本件各契約締結直後の平成四年一月一八日に発生したこと、本件火災後の被告の供述には事実と異なる点や不自然な点があることが認められ、これらの事実を総合すると、被告は、故意に本件火災を発生させたと推認することができる。仮に、被告に故意が認められないとしても、被告は、耐熱処理の施されていない食器を灰皿として使用し、昭和六三年の火災の時と同様に、吸い殻で一杯になった灰皿に消火していないタバコを放置したことにより、本件火災を生ぜしめたのであるから、本件火災発生につき重過失があると認めるのが相当である。

(裁判官足立哲)

別紙契約目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例